金龍を出展した先々で、どうやって描いてあるのか、材料は何なのか…などを知りたいというお声があがっている。
ありがたい話だ。
別に私には企業秘密などは一切ないので、この機会に工程をご紹介しようと思う。
これは「絵画」です
というのも、「これって何?」「絵なの?!」というやり取りもお見受けしたので。
自分としては「絵に見えないのか?!」という、驚きが大きくて。
まず、冒頭でそこを特定しておきたいなと。
絵に見えないという方は、「これは何なの?」と思われるようで。
原画ではなく、画像だけでごらんいただいている場合には、そうなるのかも知れない。
絵に降ろす対象を特定する
最初の工程は、これ。
このスペースに、何が降りてくるのかを特定することだ。
今回は「金龍」と決まっているので、金龍を降ろすと決める。
儀式的なことは特にしないが、金龍を呼ぶというイメージを明確に自分の中で持つ。
対象によっては、儀式的な手順が必要な場合もある。
あまり縁の濃くない神様の場合などだけど…私は滅多に、しないかな。
描くことが決まった時点で私にコードが来ているので。
また、儀式的な手順を入れるケースとしては、呪術的な要素を絵に含める場合だ。
描き始める前に何らかのシンボルや文様を意図的に忍ばせる…という。
それはご依頼の内容などによって、やるかやらないか分かれる。
ちなみに、この金龍には呪術的な要素は全く加えていない。
シンプルに、金龍をここに降ろす、という設定のみだ。
画材はキャンバス+アクリル絵の具
額装しなくても飾れる、側面にも装飾ができる厚みのあるキャンバスを使っている。
サイズは、40㎝×40㎝の正方形。
記事末に商品リンクで紹介しておくので、使ってみたい方はどうぞ。
まず、開封したらキャンバスに最初の塗りを行う。
「地塗り」といわれる工程で、仕上がりの雰囲気はこの「最初の塗り」でけっこう、左右されてくる。
のだが。
私は計算して描くってことが全くできないので、地塗りの色に何を選ぶかも、手の感覚に任せる。
白ベースか、黒ベースかというのをまず決めるのだが。
白と黒、それぞれ手に取ってみて、「こっち」という感じがした方を選ぶ。
ごめんね、アバウトで。
一層目の地塗りが白で、その上に赤を重ねて、半分だけ黒にして残りは銀…とか。
まあ、なんというか……それらも全て、手の感覚次第。
頭で絵の仕上がりがイメージできる、ていうことは、アクリル画の場合はまず99%ない。
どのように描き出していくか、ということは一切計算していない。自然に出てくる
とにかく塗りを何度も重ねて、絵の厚みを出していく
水彩のような雰囲気で仕上げるアクリル画もあるが、私は厚塗りの重厚感が好きだ。
もとは油彩をやっていたせいもあるが、下に重ねた色の数だけの厚みや奥行きが現れるのが醍醐味。
どんどん、手が勝手に動くのに逆らわずに、色を重ねていく。
下の動画をごらんいただけばおわかりの通り、筆をあまり使わないでナイフで塗り重ねることが多い。
かなり後の工程になって、細かいところに入るまでは、ほとんどの作業はナイフだけでやってしまう。
なんかよくわからないけど手はどんどん先へ進める…という感じ。
まだ、全く、どのような姿、どのような意匠をもって金龍がここに出てくるのか、自分でもわかっていない時期だ。
ただし、「本当に出てくるのか?」という種類の疑問は一切、持たない。
そこは、天使時代からの慣れというか、己の手の行う仕事に対する信頼があるので。
ここらへんから、少しずつ、金龍が姿になって出て来はじめる。
このようにして、上にどんどん、龍の姿を描きこんでいく。
画像の中の白いところは、絵の具ではなく、盛り上げ剤。
後述するが、物理的に厚みを出すために用いる画材の一種だ。
その溶剤の色がもともと白いので、厚塗りする時は絵の具の白よりも盛り上げ用ペーストでガシガシ描き混んでいくことが多い。
筆を用いず、ペインティングナイフで描く。
描くというよりは、造形するという方が近いかも。
で、描き込みが進んでくると、撮影しておこう…とかいう頭の発想も雑念として追っ払われることが多い。
この時も、ご多分に漏れず…で、記録がごっそり飛んでいる。
上の画像から、突然、下の状態になるところまで工程写真が残ってなかった。
龍髭は、絵のイメージを左右する重要なところ。
髭の方向や流れで、動きが大きく変わってくる。
今回は、髭は筆で描かず、絞り出しで髭の太さを慎重に出した。
ごっつい髭でもいい場合は別だが、今回の金龍は髭が比較的繊細なイメージだったので。
髭は重要だが、やはりなんといっても正念場は眼。
眼の描き込みは一番神経を使う。
今回の金龍は点眼ではなかったので余計。
半立体の物理的な厚みを出すのは「モデリングペースト」という溶剤
盛り上がっているところは、盛り上げるためのアクリル画用のペースト材を使っている。
モデリングペーストと呼ばれるものだ。
やや粘りの強い、乳状の樹脂で、絵の具を混ぜて着色することもできるものだ。
絵の具だけで盛り上げると後に割れたり剥がれ落ちたりする危険があるが、ペーストを用いることでかなりの厚みを出すことができる。
これは別の作品の様子だが、ペーストを塗る感じはわかるかと思う。
今回使用しているキャンバスは厚みがあるので、側面にも描く。
時々、平面の状態で描いて後から組み立てているのかと聞かれることがある。
そうではなく、もともとこういうカタチのキャンバスなので、側面は側面として描く。
この時は続きのような状態で描いているが、絵によっては側面には全然違うものを描きこむこともある。
そういう時は、文様や、雲など、装飾図案的なことが多い。
このような工程を経て、完成に至る。
せっかくなので、小さい方の金龍も途中画像をご紹介。
この小さい金龍、これはこれで、5月の東京、神楽坂での『龍の箱庭展』では好評をいただいた。
欲しいと言ってくださった方も何名かおられたが、これは一対で「私用の金龍」として描いているため、お譲りすることはできない。
今回使用している画材類のご紹介
40㎝正方形、厚みのあるキャンバス。
盛り上げ剤は、私が今使っているものはショップブランド品でAmazonでは買えないので、同じような商品を例として貼っておく。
ミニサイズ金龍を描く時に使った10㎝正方形キャンバス。
私が一番よく使うのはこちらのアクリル絵の具。
しかし、ゴールドだけはこちらを使う。
この「ターレンス アムステルダムアクリリックカラー」は、大きなチューブでもリーズナブルでありがたい。
その上、鮮やかな色が多い。
ゴールドとシルバー、そして赤の鮮やかなものは、ターナー色彩のアクリル絵の具よりもターレンスの方を使う。
本来、別ブランドの絵の具を混在させない方がよいのだが。
使いたい色がないなら、そこは、致し方なし。
上記のような画材、工程で、金龍はできあがった。
もっとも、ただ描いただけで「絵が動いて見える」「見ていたら、外に出てきた」ってことになるのかどうかは、定かではない。
そこらへんは、私もそこそこ年季が入ってきていることだしね。
なーんて、あぐらをかいていると、いきなりそっぽを向かれて何も降りてこなくなる…なんてことは普通に起きると思う。
だから、舐めた態度で臨んでは、いけない。
最近は制作の時に肉体的にも精神的にもごっそりと削られて寝込む…などは本当に、なくなった。
身体が慣れた、というのもあるし、心構えが昔とは違う、というのもある。
まあ、それも、「あくまでも、現時点では」ということに過ぎないのだけどね。