小劇場「虚像を創り上げる人」

小劇場
お手紙のような素敵な文章を書く、彼女

とっても「いい人」がいます。

彼女はすごく優しくて、思いやりのある人。

人の心を掴む、お手紙のような文章を綴ります。

細やかで、それでいて自己主張もあり、芯の通った人だなぁと誰にでも感じさせます。

私は、彼女と直接会ったことはありません。

でも、メッセージ交換はしたことがあるし。

日々SNSで見る彼女の投稿は素敵だし。

いつか、会いたいと思っています。

ある時。

私は、彼女がとても酷い対応を受けて傷ついた出来事について書いているのを、見ました。

信用していた相手から、その評判とまるで逆な横暴な扱いを受けたと。

相手は男性で、一方的に彼女の誠意を踏みにじった。

ネット上で垣間見る彼のイメージを裏切る、とても乱暴で無礼な振る舞いだったようです。

ひどい奴がいるもんだ…と、思いました。

どうも、共通の知り合いっぽい。

誰かわからないけど、うっかり関わってるかも知れないし、気をつけていよう。

私は、そんな風にも思ったのでした。

聞いて…この前、すごくイヤなことが

しばらく経って、その件を忘れた頃。

私は、知人から驚くべき話を聞かされました。

彼は、とても怒っていました。

ふだんは、むしろのんびりしているくらいの人で、そんな風に怒っている姿は初めて。

それだけでも十分に驚くことなのに。

彼は、ある会合でひどい対応を受けた挙句に、およそ事実ではない話を言いふらされたのだとか。

約束を一方的に破り、拒否も聞き入れず、大声で威嚇して強引に自分のやり方を押し通したと。

どうしても、と頼み込まれたから協力することにしたのに…と書かれたけれど、依頼してきたのは向こう。

手順もすべて、事前に説明して了承を得ていたはずのことを、当日になって現場で拒否され、すべての下準備がムダに。

納得できず、話の流れで声を荒げたこともあった。

それを、自分を無視して乱暴に進めようとしたあげく怒鳴り散らされ脅されて、泣いて帰った…と吹聴されたと。

しかし、おそらく自分が事実をを言ったところで、その相手はかなり信頼されている人だし、きっとみんな信じない。

もう関わりたくないから忘れる…と、言うのです。

あれ?

なんか、その話…どこかで聞いた気がする。

そう思って、更によくよく聞いてみると。

その「虚偽を言いふらした」のは、例の「お手紙のうまい女性」その人!

ひどい奴もいるもんだ…と思っていた「その相手」が、目の前で怒っている人だったのです。

事実を巧みに脚色し、一つの出来事をまるで違う顛末に作り替えて、自分がいかに酷い扱いをされたか演出していたのです。

その席で一緒に話を聞いていた他の知人が、少し迷った様子で切り出してきたのは、その時。

実は、自分も彼女とはちょっとね…と。

「○○さんと、△△さんも、彼女とはもう関わりたくないって言ってました」

出てくる出てくる…実際に会って話したこともある人達の名前が。

彼女は何をしているの?

それから私は、注意深く彼女の文章を読むようになりました。

今まではそこまで気にしていなかったけれど。

毎回毎回、構成が「不遇(逆境)に置かれたけれど切り抜けて、成長しました。ありがとう」のスタイルになっている。

そして、文中にはたいてい、素晴らしい第三者が登場して、助けてくれる。

あるいは、誰か大切に思っている人との断絶(時には死別)があり、その悲しみから救われる希望をくれる人がいる。

シチュエーションが違い、出来事の性質も違うけれど。

構成そのものは、だいたいほぼ、その流れ。

なるほど。

だからか。

そこはかとなく、思っていたことがあったのです。

よくよく、ドラマチック展開をする出来事に多く遭遇する人だなぁ…と。

なんのことはない。

そのように、作っていたわけです。

ほんの少しの事実に山ほど脚色し、他人を悪者に仕立て上げて。

もちろん、実際の彼女はきっと、確かに、心優しくて素敵な人のはず。

そうでなければ、誰も信じないはず。

無理なく信じさせるだけの本当の素敵なところが、あるはずです。

ただ、「生け贄」にされた人が、沈黙して避けることを選ぶほど、やり口が鮮やかだということでもある。

普段SNSで交流して、ごくたまに会って短時間話す人でも、自分がやられなければ気づかない。

文章と写真、ちょっと顔見知りという程度の人の信用を集めているっぽい雰囲気。

そういうものに惑わされ、実態が見えなくなっている。

どのような相手でも、自分が見ているのはごくわずかな面でしかない。

思うよりも、実像は複雑なものなのです。

おしまい

※このお話は、フィクションです。

[kagurazaka]

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